受賞者インタビュー
受賞者インタビューNo3 受賞 山路こいし様
【椅子を作る人】
- 第一回モーニングスター大賞、受賞おめでとうございます。書籍作家となって大きな変化はありましたか?
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ありがとうございます。
現時点で特に変化はありませんが、当事者として「本を作る」作業に関わるという得難い機会を楽しませていただいています。 - 簡単な自己紹介と作品の紹介をお願い致します。
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山路(やまじ)こいしと申します。切れ者やアンチヒーローなんかが大好物で、そういったものをいくつか書いています。
『椅子を作る人』は、二人のイギリス人男性を軸にして展開されるサスペンス小説です。追う側と追われる側との間に生まれる歪な友情、端正な皮膚の仮面に隠された醜悪な狂気、猟奇的な殺人事件とクラシック音楽。私の好きなものをこれでもかとばかりに詰め込んだ、趣味の煮凝りとでもいうべき作品です。
- 文章を執筆しようと思ったきっかけはなんですか。
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J・R・R・トールキン著の『指輪物語』を読み、その壮大な世界に強く感動したことがきっかけで、小説や絵の真似事をするようになりました。
当時は切れ端のようなものばかり作っていましたが、ここ数年は作品としての連載・完結を意識して書くように。SNSを活用し始め、似た趣味を持つ方々との交流機会が増えた影響かと思います。 - モーニングスター大賞に応募しようと思ったきっかけはなんですか。
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SNS上でコンテストの情報を見かけ、副賞のユニークさ・魅力に惹かれたことがきっかけです。
実際に副賞を手にした時には、改めてその質量的なインパクトに驚かされました。配達員のお兄さんも思わず苦笑するレベル。 - 受賞するまでの投稿歴を教えてください。
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一度だけ『ネット小説大賞』さんに投稿させていただいたことがあります。
私の書くものはどれもニッチで偏りが激しく、まずこういったコンテストで喜ばれる作風ではないだろうと感じていたため、積極的に投稿はしていませんでした。 - 受賞の知らせを聞いた時のお気持ちをお聞かせください。
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月並みな感想ですが、とにかく驚きました。お祭り気分で参加してはみたはいいものの、上述の通り、とても喜ばれる作風ではないと考えていたためです。
そのぶん喜びも大きく、公式発表の日にはちょっといいビールで乾杯しました。おいしかったです。 - その受賞作についてですが、アイデアは何から着想を得たのでしょうか。
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SNS上での何気ない呟きが元になりました。
時々、好きなものやシチュエーションなんかをSNS上で垂れ流しているのですが、その時にふと「誰も座らない椅子」というフレーズが飛び出しまして。あ、いいなと。そのフレーズに、なぜだか無性に惹かれたんです。
どうして誰も座らないんだろう。あるいは座れないのかもしれない、その椅子は殺人の成果物だから……と、好き勝手に妄想を広げていった結果が『椅子を作る人』です。 - 受賞作を書く際に心がけていたこと、工夫したことなどあればお聞かせください。
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私はよく、小説を書く際に「この物語はどんなメディアで再生されるのか(小説はもちろん、実写映画・アニメーション・漫画など)」ということを考えて遊ぶのですが、『椅子を作る人』には海外ドラマのイメージが強くありました。ですので、まず頭の中でそのドラマを構築・再生し、それを小説という形に流し込むといった手順で書いていました。
きっと、創作をされる方なら一度は自作品のOP・ED妄想をされたことがあるのではと思いますが、私もそのクチです。さらに、演じる俳優さんは誰か、カメラは何を映してどう動くのか、どのタイミングでBGMが入ってくるのか……といったところまで妄想を広げ、煮詰めていくと、その後の執筆が驚くほどスムーズに運びました。人によりイメージの構築手段は異なるでしょうけれど、私の場合は映像で考えるのが性に合っていたのだと思います。 - 作品の一番の見どころをお聞かせください。
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作中で登場するクラシック音楽の数々です。幼い時分にピアノとヴァイオリンを習っていた影響でかクラシック音楽が大好きで、『椅子を作る人』ではそれらの曲を思うさま散りばめられたためにとにかく楽しかったです。とりわけ音楽を強く意識して書いたのは、主人公のチェスとアーロン・ボネットが対峙するシーンと、確信に至ったバーニーが『裁きの椅子』の元へと歩いていくシーンの二箇所。
あとは、妄想の中でチェスがラフマニノフを奏でているシーンでしょうか。彼の精神がとことんまで追い込まれるシーンですが、(悪趣味なことに)思いきり楽しんで書いていたので、皆さんにもそのワクワク感が伝わると嬉しいです。 - 応募した後、各選考段階で結果を待っている間はどんなお気持ちでしたか。
- 正直な話、当時は仕事が正念場を迎えていたため、選考結果の発表日さえ把握できていませんでした……。おかげで胃痛とは無縁でしたが、最終段階の折、マイページにメッセージ通知を見つけた時には何事かと身が震えました。
- 第二回のコンテストに期待しているもの、読みたい作品などはございますか。
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細々とニッチ畑を耕している身からすると、やはり、一風変わった路線の作品が脚光を浴びることを期待してしまいます。
個人的には、アンチヒーローによるとことん男臭いハードボイルド小説なんかがあったら嬉しいですね。酒と女と厄介事、みたいな。きっと喜んで飛びつくと思います。 - 第一回受賞者として第二回に参加される方にアドバイスをお願いします。
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アドバイスができるほど大層な身分ではありませんが、「参加しなければ始まらない」。これだけは確実に言えることかと。
参加しなければ始まらないし、仮に落ちたとて終わりではない。なによりも重要なことは、ご自身が大いに楽しむことだと思います。
第二回にはさらに多様な作品が集まり、よりいっそうコンテストが盛り上がることをお祈りしております。 - 技術的な観点で執筆時に気を付けた方が良いといったところは何かございますか。
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技術的……かは分かりませんが、どうか執筆データはこまめに保存されますよう!
このご時世、PCやスマートフォンで執筆をされる方が大半かと思います。私自身もスマートフォン派で、隙間時間を使って少しずつ書き進めるタイプだったのですが、ある夜、スマートフォンをアップデートしながら眠っていたらば朝には全てが消えていました。実質的な被害を伴う悪夢でした。以来、重要なものはブラウザ依存のサービスにアップロードするようにしています。 - 小説を書くうえで、普段から心がけていること、大事にしていることはありますか。
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なるべく平易な言葉で分かりやすく、リズミカルに、喉越しすっきりな小説が書けたらとは常々思うところです。
誰かに読んでもらいたいと願う以上、『小説』も”作者”と”読者”のコミュニケーションであると考えます。コミュニケーションは共通言語・認識の元に成立するというのが私の根本的理念ですので、その小説が特定の知識層に向けたものではなく、不特定多数の読者を想定したものであるならば、必要以上に難解な単語を並べることもなかろうというのが持論です。 - 小説を書いて良かった、と実感するのはどんな時でしょうか。
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自分の頭の中にしか存在しなかった世界を、小説という形に流し込めた時。小説を通じて交流が広がり、たくさんの人の熱い思いやこだわりに触れられる瞬間なんかも楽しいです。
あとはやはり、作品に関するご感想をいただけた時。生臭くて恐縮ですが、どうにも現金なやつなので……。 - インタビューにご協力いただきありがとうございました。最後に読者の皆様へ一言お願い致します。
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こちらこそありがとうございました。
この場をお借りして、『椅子を作る人』を応援してくださった全ての方に改めてお礼申し上げます。その感謝の気持ちを動力源とし、現在、鋭意加筆修正を進めております。手前味噌ではありますが、WEB掲載版からはぐっと完成度を高められたと思いますので、すでにWEB版をお読みいただいた方もそうでない方も、ぜひ一度書籍を手にとっていただけますと幸いです。共にイギリスの風を追い、心地いいクラシック音楽に身を委ねましょう!
以上、最後までお読みいただきありがとうございました。